イベント「日本で2番目に小さな町がなぜ?いま??ビジョン・ミッション・バリューなのか!!(21.08.19)」【前編】
先日「日本で2番目に小さな町がなぜ?いま??ビジョン・ミッション・バリューなのか!!〜これからの役場と公務員の働き方を考える〜」という三宅町主催のオンラインイベントを開催しました。
▼イベントレポート【前編】概要
・森田町長が官民連携を進める理由は?
・住民さんもビジョン・ミッション・バリューを自分ごと化してもらいたい。
・バリューを人事評価に含め、コミュニケーションの一つのチャンネルにする。
・バリューに「失敗」を入れた理由は?変わり続けることが三宅町の生き残り戦略。
▼登壇者
毛塚幹人氏:元つくば市副市長
納翔一郎氏:富田林市職員(@naya_shoichiro)
森田浩司氏:三宅町町長(@miyake_cho_cho)
安田翔:三宅町複業人材(@yasutese)
▼タイムテーブル
第1パート(15分)
森田町長インタビュー
「なぜ役場がビジョン・ミッション・バリューを掲げるのか?」
第2パート(40分)
三宅町役場のビジョン・ミッション・バリュー、どう思う?
〜他自治体の首長・公務員が森田町長にガチフィードバック〜
日本で2番目で小さい町だからこそ、たくさんの人の力を借りて町づくりを進める
安田:では、まず森田町長から、自己紹介を含め「なぜビジョン・ミッション・バリューを掲げるのか?」というテーマでお話いただければと思います。
森田:奈良県三宅町町長を務める森田浩司です。三宅町は日本で2番目に小さい町です。今2期目で5年目に突入しており、三宅町は様々な挑戦をして進化している最中です!
三宅は、歴史があって交通の便もいい場所。奈良平野の真ん中に位置しています。図のピンク色の箇所が過疎化していると言われている場所で、ほとんどが山地なんです。その中で私たち三宅町は、唯一の平野。本気で過疎化を解決しようとしています。
森田:三宅町の行政の特徴として、小さい町ですので財源的なところが弱かったり、いろいろな施策をしようとしても、職員のマンパワーが不足したりとか。あと、どこの自治体でも共通していますが、地域の課題が多様化してきて行政だけで解決していくのが難しくなってきています。
それで、役場、民間企業、住民さんがそれぞれ得意不得意を補い合い、たくさんの人の力を借りながら、町づくりを進めています。例えば子育て施策では、シェアリングエコノミーの概念を広げようと、住民さん主導の共助コミュニティの形成など、支え合いの町づくりをデジタルを活用して進めていこうとしています。
みなさんの得意を集めてつながっていく。そして官民連携の次には、官民官連携も生み出されています。
ビジョン・ミッション・バリューは、いろいろな人の顔を思い浮かべながら策定した
安田:今回はそんな三宅町がビジョン・ミッション・バリューを策定されました。昨今の激しい外部環境の変化の中でも、経営においては、ぶれない意思決定をしなければならなかったり、働く人が、働く意味ややりがいを求めるようになったりと、ビジネスの世界では重要だとされています。
しかし行政がビジョン・ミッション・バリューを定める例はなかなかありません。なぜ、どういった経緯で決めていったのか、森田町長に伺いたいです。
森田:私たちは未来の設計図と呼んでいます。まず最初に、ビジョン「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」を作ったんです。
町の地方創生総合戦略の改定時期だったので、住民さんに話を聞いたり、職員からも意見を出してくれたりしていて、みなさんで議論を重ねていました。その中で私は、三宅町を住んでいて幸せを感じられる町にしたい、と思うようになっていきました。小さい町だからこそ、自分らしく暮らしていけるのではないか、と。
「自分らしく」というのは、夢に挑戦している状態。MiiMoのコンセプトを、住民さんの「やりたい」を応援し、叶えられる場所にしたいと思っていたこととも重なりました。また、「自分らしくハッピーに」は、暮らし方や生き方を選べることだと、職員にはよく話しています。
公務員はルールを作るクリエイティブな仕事。生きづらさを感じている人に選択肢を作っていかなければならないと思っています。柔軟に制度を変えていける町にしようと、この言葉を掲げました。
森田:三宅町役場はなぜ、何のために仕事をしているのか。複業人材の方から何度も問われ、壁打ちして言語化していきました。
見えてくると、ストンと腑に落ち、仕事がしやすくなったんです。役場職員も、何のために仕事をしているかはっきりしていないと、働きがいを感じられていないのではないかと思うようになりました。組織の歯車だと思って仕事をしているのか、自分たちが目指しているものがあって仕事をしているのか。そこで、ミッションやバリューを策定することにしました。
森田:職員って、事業がたくさんあって忙しいんです。でも、減らすにしても、どれを減らしたらいいのか判断軸がなく迷ったり、ずっとやってきたから漠然と続けていたりしていて。しかし、大事にすることを定義すれば、そこからずれていないかどうかで判断できるようになると思ったんですよね。
住民さんにも見える形でビジョン・ミッション・バリューを提示していきます。これまで行政には、失敗が許されない風潮がありました。しかし、バリューに「失敗」とあるので、住民さんには、三宅町役場は失敗を失敗のままで終わらせないし、次の挑戦の糧にする、ということをご理解いただけるのではないかと考えています。
先日、窓口に一人のおばあちゃんが、亡くなった旦那さんの年金の受け取り停止の手続きをしに来ていました。対応していた若手職員は、どういうことをしたいのか聞き出し、おばあちゃんが持っていた書類を見て「今から一緒に書きましょう」と言っていたんです。本来、年金事務所で対応すべき書類であり、職員が教え方を失敗してしまえば、おばあちゃんに迷惑をかけてしまうことになりかねません。しかし、職員は失敗を恐れず挑戦していたんですよね。
あとでその職員に話を聞くと、「先輩がそういった仕事の仕方をしていたので、当たり前だと思っていました」と言っていて。ミッションやバリューは、三宅町役場のDNAとして受け継がれてきたことだと改めて感じましたし、これからも大切にしたいと思います。
安田:最後のエピソードはとても象徴的ですね。民間企業がビジョン・ミッション・バリューを掲げるとき、トップダウンになりがちなんです。しかし三宅町役場では、職員の方から、これまで大切にしてきたこと・これから大切にしていきたいことを聞き出した中でまとめていった、という背景があり、共感されている方が多いですよね。
私たち複業人材が問う中でだんだんと言語化されていったわけですが(笑)、ミッションにある「共創者」という言葉は森田町長自身こだわりがあると聞きました。
森田:そうですね。住民さん一人ひとりが、自分ごととして町のことを考えてほしい、と思ったからです。無関心が一番怖いな、と。一緒に町づくりに取り組むからこそ、町に愛着が湧いたり、町のために何かしようと思ってくれたりする人が増えると思うんです。そして、その雰囲気が広く伝わっていけば、人口が減ってしまったとしても元気な町であり続けられると思っています。住民さんと行政とがいい緊張感をもち、ともに刺激しあいながら成長していきたいです。
安田:住民さんだけではなく、民間企業にも当てはまりそうですね。官民連携の事業を通して、三宅町と一緒に成長していく。ビジョン・ミッション・バリューは、いろいろな人の顔を思い浮かべながら策定したものなんですね。
自治体の首長、公務員が森田町長にガチフィードバック
安田:森田町長にお話を伺ったところで、「三宅町役場のビジョン・ミッション・バリュー、どう思う?」のディスカッションに入っていきます。まずお一人目は、富田林市産業まちづくり部商工課副主任の納翔一郎さん(@naya_shoichiro)です。プライベートでは、ブロガーとしても活躍されています。納さん、簡単に自己紹介をお願いします。
納:ご紹介ありがとうございます。もともと森田町長とは、FacebookやTwitterでやりとりさせていただいていて。今回のイベントはTwitterのDMでお誘いいただきました。今日はよろしくお願いします。
安田:お二人目は、前つくば市副市長の毛塚幹人さんです。財務省を経て、つくば市の副市長を、2017年から4年間務めていらっしゃいました。実は、毛塚さんは私の大学の先輩で。私が複業人材に応募したのも、毛塚さんからの複業人材募集の情報提供がきっかけでした。
毛塚:ご紹介ありがとうございます。現在は、いくつかの地域の政策立案を手伝うなどしています。いろいろな地域を見ていても、こんなにしっかりとビジョン・ミッション・バリューを作っているところはなかなかありません。極めて異例ですね。なので今日議論できるのがとても楽しみです。
人事評価をコミュニケーションの一つのチャネルにする
安田:ではまず、三宅町のビジョン・ミッション・バリューを率直にどう思うか、納さんから感想をお聞かせください!
納:シンプルに羨ましいです(笑)。採用したい職員像などは、人材育成基本方針などで掲げられてはいるのですが、職員全員には浸透していません。住民さんも知らない場合がほとんど。例えば富田林市でも、どんな町を目指していて、どういう職員がいて、というのはHPで探すのもとても難しいんですよね。
しかし、三宅町のようにビジョン・ミッション・バリューを対外的に示すことで、職員が存在する意味を、職員だけではなくて住民さん、奈良県、近畿圏、そして日本全国から知ってもらえるいい機会になる。中だけではなく、外からのプラスの効果もあると思っています。
私自身、何度も心が揺さぶられました(笑)。後輩と「三宅町ってどれくらいで通勤できる?」と話題に上がったくらい、現役公務員の立場からもとてもいいなと思います。
毛塚:納さんがおっしゃったように、お金をかけずして、このビジョン・ミッション・バリューによって三宅町のイメージが爆上がりしていますよね。
各課や各政策のビジョン・ミッションまではある程度作られるんですが、バリューを作るのは難しいと感じています。副市長のときも、いくら小さな組織でもマイクロマネジメントはできない、と切実に思いました。一人ひとりの職員は、日々無数の意思決定をしています。そういうときに、勇気をもらえたり拠り所になったりするようなバリューに仕上がっていると思います。
森田:ありがとうございます。今回バリューまで作りたかった理由は、バリューを入れ込んだ人事評価制度を、コミュニケーションツールとして使いたい、と思ったからです。
仕事のできるできないは、正直、個人差があります。だから評価する側は、何を見て評価すべきか判断に迷うと思うんですよね。ですがバリューなら、誰しも行動に移すことができます。個人の目標設定においたり、仕事の仕方を見直したりして、評価の基準を統一してもらう。職員同士で「この仕事はバリューからずれていないか?」という会話が飛び交う。コミュニケーションツールになることを願って、こだわって作っています。
毛塚:先ほど、人材育成方針はあっても使われていない、という話がありましたが、日々のコミュニケーションの中ではなかなか話題に出てこないんですよね。だからこそ頭の中に刷り込まれず、意識されていません。人事評価をコミュニケーションの一つのチャネルにする、というのはとてもいい仕組みづくりだと思いました。
森田:評価する側もされる側も基準がないと困りますし、不信感が生まれる原因にもなってしまうと感じていて。だからこそ評価の基準を統一して出すことで、働きやすくなっていくと思います。「自分らしくハッピーに」は住民さんはもちろん、職員にもそうあってほしいです。
失敗は100点に到達するまでの通過点。変わり続けることが三宅町の生き残り戦略
毛塚:行政は、減点方式の評価方法だとよく言われます。少しの失敗でも評価が悪くなるし、頑張っても加点にはならないので、挑戦しようと思いづらいと一般的に考えられています。インセンティブ構造を調整して、努力が報われるようになると、とてもいいと思います。現役で働かれている納さんに、このあたりの感覚を伺いたいです。
納:私たちの職業は正直、褒められることがとても少ないんですよね。反対に、失敗するとすぐに批判を受けてしまう。なのでどうしても、挑戦しなくなるんです。しかし、バリューに「挑戦」「失敗」を入れることで、行動が変わりますよね。住民の方も、自分ごととして捉えられるようになると思います。公務員も挑戦するし失敗するんだ、と。それだけでも意味があると思いました。
また、職員自身が働く方向性が見えるようになりますよね。コロナ禍で特に、若手職員の離職が問題になってきています。 ビジョン・ミッション・バリューの一本の軸ができると、仕事のやりがいにつながります。
森田町長がnoteのインタビューの中でもおっしゃっていたように、ビジョンは首長によって変わるけれど、ミッション・バリューは全国どの公務員にも当てはまることだと思っています。それを言語化して発信することは、ほかの自治体職員の勇気につながると思います。
森田:実は、職員の中では、バリューに「失敗」は入れないほうがいいのでは、という議論が起きたんですよ。安田さんにも止められたぐらいで(笑)。
安田:「失敗」はいくらなんでもやめたほうがいいですよ、って言ったんですよね(笑)。毛塚さん、納さんいかがですか?
毛塚:行政はこれまで、前例を続けていくことが良しとされてきたかもしれません。ですが、人口が減りどんどん縮小している地方自治体の現状を考えると、これからは、それはマイナスの取り組みでしかなくなっていると思います。チャレンジを繰り返していくしかないのです。バリューの「失敗」は、尖っているように見えますが、今の行政が向き合わなければならない本質を表しているように感じます。
また、新しいことをするときには、批判や失敗はつきものです。なので、職員さんの心理的安全性につながっていくかもしれないですね。
森田:最近だと、新型コロナウイルスのワクチンの集団接種のときに、このバリューが体現されていることを感じました。接種初日、「密」の状態が生まれてしまった上に、スムーズに接種ができていなかったんです。それでその次の日から、どうやったら「密」を生まずに、スピード感をもって接種できるか、めちゃくちゃ議論していて。次のワクチン接種では、3時間で700人弱の接種をすることができました。
一回目の失敗が経験になっていたんです。人間なんだから、最初からうまくいくわけがないんですよね。少しずつ修正を重ねて、いいものにすればいい。私自身、最初からうまくできる人間ではないですし。
毛塚:森田町長のおっしゃるように、失敗をさらなる改善につながるバネにできるといいですね。挑戦の中での良質な失敗については適切に評価するとか、そういった取り組みもできそうですね!
森田:人事評価の一つに、失敗した回数を入れてみるのもおもしろいですね(笑)。
納:私も、失敗は100点に近づけるためであれば成功の一つだと思っています。トライアンドエラーって、公務員の世界だとあまり受け入れられないんですよね。一般的にも、失敗という言葉に対して、ネガティブな感情を持っている人が多いような気がします。
森田:まだ住民さんにはお伝えしていないのですが、必ずそういった意見は出てくると思います。そのときには、失敗は100点に到達するまでの通過点であり、失敗がないと100点のものができません、とお伝えするつもりです。
失敗を許容できないと、変化は起こらないし成長もできません。町は取り残されていくでしょう。全国で2番目に小さい町の生き残り戦略として、変わっていく町であり続けたい、と思っています。小さいがゆえに変わり続けられるし、最先端に居続けることができるんですよね。職員自身は気づいていないと思いますが、私たち三宅町役場は一人ひとりがトップランナー。チーム一丸となって前進できていることが、私たちの強みです。
★【後編】もお楽しみに!
▼募集要項はこちら
【お問い合わせ先】
●三宅町 https://www.town.miyake.lg.jp/
●森田町長Twitter @miyake_cho_cho
【執筆=宮武由佳(@udon_miyatake)(うどん県出身ライター)】