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分相応につくる力を育むために。奈良県三宅町ではじめる〈小ささの研究所〉【スモールデザイン研究レポート#1】

皆さま、初めまして。4月より三宅町のプロジェクトマネージャーとして着任した田中友悟と申します。

これまで培ってきたまちづくりの調査企画やデザインの経験を活かして、三宅のまちづくりに参加することになりました。現在は、町長や政策推進課の皆さんと共にこれからのまちに必要な機能を構想し、三宅町から多様なアクションを育んでいくための取り組みを準備しています。

着任から早くも数ヵ月が経ちましたが、驚いたのは役場とは思えないそのスピード感です。町長を筆頭に、企画立案から素早く仮説検証に至ること、風の如し。「挑戦・失敗・対話」の精神をもとに、小さなトライ&エラーを繰り返しながらまちに必要な機能を考え続けるチャレンジングな職場です。

その中から僕がご紹介するのは、現在検討を進めている新しい学びの場をつくる構想について。僕たちはそれを「小ささの研究所」と表現しています。今回は構想の背景にある自治をとりまく課題と、三宅町が目指したい未来像についてお話できればと思います。


新しい自治のかたちを探して

右肩上がりの経済成長が終わり、多くの地域社会において少子高齢化や人口減少、住民ニーズの多様化によるコミュニティの希薄化などの問題が拡がっています。

推計によると、三宅町の2060年の人口予想は現在の半分以下の2900人。税収や域内の経済循環が減少し、社会保障費も上がっていくとすれば、役場はこれまでと同じような公共サービスを維持することが難しくなります。同様に、住民が稼いでまちを支えるという自助努力にも限界があるでしょう。市場経済や行政が力を失っていく未来においては、時代に合わせた新しい自治の仕組みが必要不可欠になります。

そのためにはまず、地域コミュニティが手を携えてまちづくりを担う〈共助〉領域の立てなおしが重要になると言えます。国や行政がカバーできない問題は、住民を中心とした民の力で支えていく他ありません。これからのまちづくりに必要なのは、いま一度、自治を起こしていく知恵と技術だと言えるでしょう。

そして、この問題を考えることは《私たち》や《まち》の未来の姿を問いなおす契機になります。「未来のまちは誰が支えていくのか」「この町でどのように生きていきたいのか」「三宅町がずっと大切にし続けたいものは何か」「縮小する未来に何を守り、何を変えるのか」。
三宅と共に生きていくために、未来の風景を思い描き、あるべき自治のかたちを考えなおすタイミングがきています。

まちづくりの力を育む《小ささ》の可能性

三宅町は全国で2番目に小さい町です。若者は少なく、潤沢な財源があるわけでもありません。
しかしそれは、縮小化が進む日本の最前線に立っているとも表現できます。自治体が発表する未来ビジョンの中には、人口が超回復する流麗な曲線が描かれている場合もありますが、その多くは難しい目標です。(もちろん人口増を目指すのは大切)

《小ささ》をアイデンティティとしている私たちは、この町の拡大を夢想するのではなく、ありのままの今を見つめる姿勢を大切にしています。そもそも「自治」とは、私たちが《私たち》のままで、日々の暮らしを守り続けていくこと。それは「分相応につくる力」を育む営みだとも言えます。

縮小時代の地方に求められるのは、世間に左右されない《私たち》サイズの豊かさをとらえ、小さくとも自分たちの手でまちをつくりだせる力です。スモールタウンである三宅は、その課題と可能性に溢れた場所であり、その探求は既に始まっています。

「Small is Beautiful.」
かつて文明経済学者のシューマッハが唱えたこのシンプルな言葉が、三宅町が探求したい価値観と重なります。まちの小ささ、人間の小ささを徹底的に可能性として読み替えた先に、三宅町らしい自治のイメージが立ち上がってくるのではないでしょうか。

まちと《私たち》がつながる対話と実験の場

以上のような思いから、三宅らしい自治を探求するべく計画を進めているのが〈Mラボ - 小ささの研究所(仮)〉という事業です。2010年代に日本各地で広がったリビングラボやフューチャーセンターと呼ばれるような市民参加型の共創の仕組みを参考に、三宅の未来をまち全体で学び、考える場をつくっていけないかと考えています。

Mラボが掲げるミッションは、〈小ささの可能性を探求し、挑戦の総量を増やすこと〉
自分たちのまちを自分たちで治める自治の営みにもっとも必要なのは、派手な特殊能力や専門的な知識ではなく、小さくつくり続けるスモールデザインの力です。ひとりひとりが小さくともまちをつくりだす力を身につけることで、三宅らしい自治の仕組みと多彩なスモールチャレンジが三宅に溢れる未来を目指します。

三宅町では、既にさまざまな場面で対話が導入され、立場を超えて問いを深めあう風土が息づいています。本事業では、これまで以上に町民の方々や多様な専門家がごちゃまぜになってまちの未来を話し合ったり、企業や大学と協力して欲しい未来をつくるための実証実験を展開していければと考えています。

Mラボの学びと実験のプロセス(試案)

詳しい内容は、来年度の事業スタートに向けて町民の皆さんと議論を進めていければと考えていますが、現時点で私たちが大切にしたいと考えているのは以下の3つのポイントです。


●ひとりの本気の声から始める

Mラボは地域課題の解決や、暮らしの豊かさを目指した活動ですが、漠然とした一般論ではなく、まちの中から立ち上がる確かな声と共にありたいと考えています。ぼんやりとしたどこかの誰かの言葉ではなく、ひとりの強い想いに価値があると思うからです。
その想いが切実で真摯なものであれば、それは絶対にまちへと深く響くはず。いま三宅に必要なのは、まちを動かす本気の声です。1人の小さな想いをみんなで分かち合い、共に新しい一歩を踏み出せる場所をつくっていきたいと考えています。

●《私たち》の境界線を溶かしていく

Mラボでは住む場所や肩書きに関わらず、想いを共にする人たちも一緒になって豊かな学びをつくりたいと考えています。これまで実施してきた複業人材登用制度やローカルスタートアップ育成事業、大学との協働などの経験を活かし、行政とは異なる専門性をもつ人たちと共に学びあう場を増やしていきます。

現在の《私たち》とは、主に土地に紐づいた地縁コミュニティを指しますが、自治の担い手が減っていく未来では、同じ志をもつ志縁コミュニティへと《私たち》の裾野が広がっていくかもしれません。
三宅とお仕事をしている人、三宅が好きで定期的に遊びにくる人、三宅が目指す未来に共感する人。そんな人たちをひっくるめて、《私たち》の範囲を再設定するのもひとつの答えでしょう。

場所や世代にとらわれるのではなく、想いでつながれる人たちとの関係を大切にしていく。既存の境界線を溶かし、多様な仲間と手をとりあう未来を目指したいと思います。

●スモールデザインの知財を集める

これまで三宅町が取り組んできた官民連携や住民サービスは、役場内の意思決定の速さや、挑戦と失敗を許容する組織風土、地域の声にきめ細やかに対応できる距離感から生まれてきました。三宅町役場の強みは、小ささの価値を理解し、活かせる点にあります。Mラボではこの強みをより一層深く探求しながら、まち全体でスモールデザインの力を育んでいきたいと考えています。

小ささを価値に変える技術と知恵は、縮小を余儀なくされているこれからの地方に求められるものです。また、経済規模が大きい都市ではなく、自然資本が豊かな農山村でもない、三宅のまちづくりだからこそ伝えられることがあるはずです。小ささから価値を生み出す知恵を集め、発信することで、スモールデザインの文化を日本全国へと伝え拡げていけたらと思います。

以上のように、Mラボが目指したい未来の輪郭は朧げに見えつつありますが、その具体的な内容はこれから検討を重ねていく必要があります。もちろん役場内の話し合いだけではなく、町民さんや議員の皆さん、三宅町がご縁をいただいている全国の素敵な皆さんたちと共に、です。
そのための対話の場を来年度に向けてつくっていきますので、その際はぜひ皆さまのご意見を聞かせてください。

Mラボの今後についてのアドバイスやご意見・ご質問などがあれば、コメントで応援いただけると嬉しいです。(キレキレの批判ツッコミや応援エールも大歓迎です!笑)
未来の《自治》や《私たち》の姿とは、そうやって対話を積み重ねた先に生まれる関係のような気がしています。

これまでの当たり前という壁を溶かし、まちの確かな声から出発する学びと実験の場所。
幾つものスモールデザインで溢れるまちを目指して、引き続き対話を重ねていきたいと思います。


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全国に2番目に小さいまち三宅町のアクションを通じて、皆様と一緒に未来のまちづくりを考えていきたいと思います。

参考資料
三宅ビジョン・第2期三宅町まち・ひと・しごと創生総合戦略 概要版
総務省(2018)自治体戦略2040構想研究会 第二次報告
信州リビングラボ
E.F シューマッハー(1986)『スモールイズビューティフル』