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学びと実験の場から、まちの「つくる力」を育みたい。【スモールデザイン研究レポート#2】

こんにちは。三宅町プロジェクトマネージャーの田中です。

気づけば今年度も残すところあと一ヶ月。政策推進課の皆さんと2023年の夏から構想を進めている〈Mラボ〉の輪郭も、少しずつそのかたちが見え始めています。

前回のレポートでは、〈小ささの研究所 Mラボ〉設立に向けた想いと、自治の仕組みを問いなおすために私たちが大切だと考えているポイントについてご紹介しました。

今回のレポートでは、私たちがMラボをとおして実現したい「学びと実験」への想いを改めて整理してみたいと思います。


●三宅町の自治を取り巻く問題

前回も取り上げた通り、今後地域の担い手が減っていくのは確実な未来です。国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によると、2060年の総人口は1億人を割り、3.8人に1人が高齢者となります。それに伴って労働力や国内需要が減少し、経済規模が縮小するのは避けられない未来です。

三宅町でも例外なく少子高齢化・人口減少は加速します。
全国推計に比べて急激な人口減少が生じ、2064年には総人口が2521人に、高齢化率は49.2%になることが予想されます。社会保障費が膨らむにもかかわらず、労働力人口は大幅に減少することで、現役世代一人当たりの負担は大きくなる一方です。2064年には高齢者1人を0.9人で支えなければいけない時代が訪れます。

また地区別の人口推計をみてみると、10地区のうち8地区で大幅な人口減少が進みます。地域自治の担い手がいなくなるのも時間の問題だと言えます。

地域の資産であるヒト・モノ・カネは減少していくにも関わらず、解決すべき課題は多様化・増加していくのがこれからの時代。もはや公共サービスは行政による公助だけではカバーしきれず、また住民の自助努力だけに頼るにも限界があります。これからの時代はコミュニティにおける共助を核として、地域全体で自治の仕組みを見なおすことが重要です。また、自治体はそのような問題意識を持った上で、目に見える現在の課題と未来の持続可能な地域経営の両方を模索していく必要があると言えます。

●「分相応につくる力」を育むために

少子高齢化、人口減少は避けようのない未来です。それはほとんど全ての自治体が乗り越えなければいけない課題でしょう。そんな縮小時代の本質的な課題とは何か。
それは、まちの「つくる力」が弱まることです。

自分たちが欲しい未来は、自分たちでつくる。小さくとも、自らの手で何かを生み出す。そのような自治の意識が希薄化すると、まちは途端に元気を失っていくのではないでしょうか。
不確実性の高い未来では、前例踏襲型のまちづくりは通用しません。複雑でローカルな課題を解決するには、試行錯誤をしながら仮説検証型のアプローチを繰り返していく姿勢が求められます。

現在はテクノロジーの進化が凄まじく、知識や道具はインターネットからでも簡単に手に入ります。人の流動性は高まり、住む場所にとらわれない働き方も可能な時代です。人口減少や高齢化という現実を完全に止めることはできずとも、知恵を使えば、まちの「つくる力」を維持したり高めていくことはできるはずです。

総務省がとりまとめた「自治体戦略2040構想研究会」では、自治体は公共サービスの供給者を超えて、プラットフォームビルダー、またプロジェクトマネージャーとなることが重要だと記されています。つまり、これからの行政に求められる役割は、まちを支える公共の担い手を拡げ、育むことです。
そのためには、めまぐるしい社会の変化に適応するしなやかさや、多様な専門性を持つ人たちとの協力、町全体が一丸となれる未来ビジョンなどが重要になるでしょう。

上記のような視点をもって、行政機関と一部の地縁型コミュニティに依存した従来の自治システムを見つめなおし、現代的な新しい自治の仕組みを再編することは、まちの「つくる力」を高める第一歩となるはずです。

三宅町が三宅町であり続けるために、自分たちでまちの未来を考え、自分たちの手でまちをつくる。
そのような文化を育むために、Mラボという機能が必要だと考えています。

●「つくる力」をいかに拡げていくか

Mラボの思想的背景には、「リビングラボ」という概念が存在します。
リビングラボとは、住民をはじめとする様々な人が共に生活の問題を考え、課題解決に向けた実験・活動を行う学びと創造の場を指す言葉。どこかの誰かではなく、生活のプロであり課題の当事者である住民の声を真ん中に置き、マルチステークホルダーで生活・暮らしの困りごとの探求・解決にアプローチする点が特徴だと言えます。

地域全体でつくる力を育んでいきたい三宅町にとって、生活者を起点にさまざまな専門家と共に学びと実験を行うリビングラボの思想はとても示唆的です。
三宅町のバリューである〈対話・挑戦・失敗〉のサイクルを具現化する場として、またスローガンに掲げている〈Small〉の価値を探求する場として、三宅らしいリビングラボのかたちをデザインすることは、これからの地域自治の基盤をつくることと同義です。

社会学者のリチャード・セネットが「人間は自分たちが作るモノを通して自分自身について学ぶことができる」と表現しているように、作ることと学ぶことは密接不可分です。
時間をかけてレシピを読み込むよりも、とりあえず一品を作ってみた方が料理は上達します。
反対に、ひとつの料理だけをうまく作れるようになっても、他の料理の幅は広がりません。

ただ学んでいるだけではよい創造はできないし、何も考えずにただ作っているだけでは、成長の拡がりは生まれません。学ぶと作るの循環が、人と社会を発展させるのではないでしょうか。

Mラボの話に引きつけるならば、自治の意識を育み、未来の地域経営を考える場を生み出すには、まち全体で学びと実験を繰り返し、「つくる力」を高めることが重要になる、と言い換えられるかもしれません。
自治とは、分相応につくること。Mラボで実現したいのは、いくつもの「小さなつくる」で溢れる美しいまちです。

学びと実験という意味では、住民さんと対話する「まちトーク」や、民間企業と協働した官民連携の実証実験など、すでにその萌芽は三宅町の中に存在しています。
それらをより住民起点の仕組みに統合的にアップデートした先に、新しい自治の文化が立ち上がることを願って、引き続き設立に向けた対話とリサーチを進めていきたいと思います。

次回のレポートでは、住民起点のまちづくりを実現するための具体的な制度設計について考える予定です。Mラボについてのアドバイスやご意見・ご質問・ご批判などがあれば、是非お話させていただけると嬉しいです!

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全国に2番目に小さいまち三宅町のアクションを通じて、皆様と一緒に未来のまちづくりを考えていければ嬉しく思います。

参考資料
三宅ビジョン・第2期三宅町まち・ひと・しごと創生総合戦略 概要版
令和5年版高齢社会白書(全体版)
令和2年総務省統計局「国勢調査」
令和3年3月「三宅町人口ビジョン」
平成30年7月総務省「自治体戦略2040構想研究会第二次報告書」
『リビングラボの可能性と日本における構造的課題』木村篤信(2020)


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